観劇記録

戦う者の歌を聴かせて

2021/11/1の韓国MAの配信(字幕なし)を見たよ2 キャスト編

2021/11/1(月)の配信を見たよ。

2021年日本版のまとめはここ。

t-o-fu.hatenablog.com

キャスト

マリー:김소현(キムソヒョン)
マルグリット:정유지(チョンユジ)
フェルセン:민우혁(ミンウヒョク)
オルレアン:김준현(キムジュンヒョン)
ルイ:이한밀(リーハンミル)
ランバル公妃:박혜미(パークヒエミ)
エベール:윤선용(ヨンスニョン)
レオナール:문성혁(ムーンソンヒュク)
ローズ・ベルタン:주아(ジョー)
※私はハングルを読めないので()内に機械翻訳の読み仮名をつけました…

後述のキャストによる役の解釈にも関わってくるけど、日韓の衣裳は同じ生澤美子さんが担当している。
日本の衣裳は史実寄りで、韓国は「役の概念」を表現した衣裳が多いと感じた。

マリー・アントワネット김소현(キムソヒョン)

1幕の少女のようなマリーも、裁判も最期のときも、彼女の本質は変わらない。彼女はそのようにしかあれない。
恋に生きる少女のようなマリーの魂が透徹していくまでの物語だ、と思った。日本だと2018年の花總マリーが近い。
1幕の「国王の作業場」での「明日は幸せの歌」で、子供たち二人に挟まれたマリーは背後のルイを振り返らない。シャルルを引き離されたあとにマリーが一節歌うけど、ここでテレーズがマリーの後ろから抱き着いている。
このあたりは、マリーの人物像として、はっきりと色が出るのだろうと思っていた。日本の笹本マリーは「家族を選ぶ」マリーなので、「明日は幸せの歌」でルイを振り返って、ルイと微笑み合い、シャルルを奪われたあとにテレーズを強く抱き寄せて泣きながら歌う。
「王妃の村里」の「遠い稲妻」、フェルセンに説得されるマリー。マリーは、フェルセンが心配をしてくれているのはわかるけど、フェルセンの心配の内容まではわからない。
我々は後世を生きているので、フェルセンの心配が現実のものになることを知っている。だから、このシーンはフェルセンの立場から見ていることが多いと思う。
例えば、私たちが年上の人と話すときに「今の私」が感じている心配を、年上の人に分かってもらえない感覚。世代差、認識の差で、いまいちピンときてもらえない。
この回のフェルセンの説得は、そういう感じに近いように私には見えた。
フェルセンとマリーの間の認識に大きなギャップがある。見えている視界が違っているから、フェルセンの説得は届かない。
前述の衣裳の話。マリーの衣裳で印象的だったのが、「聖母マリアの被昇天の日」(「蛇を殺して」あたり)で、スカートに百合の紋章が入っている。王家=自分であり、オルレアンは「自分(王家)の敵」。
あと、マリーとマルグリットで、マリーのほうが身長が低いのがすごく良かった。「憎しみの瞳」での二人の対決で、マリーがマルグリットを見上げるのがすごく良い。単なる私の好みです。(日本だとマルグリットが小さいので)
同じ子守歌を知っている話のあとでマルグリットの境遇を聞いたマリーは、マルグリットに同情し、マルグリットの肩に手をかけて身を寄せる。マリーは育ちが良いから、彼女が想像ができる範囲での他者の痛みには、すぐに心を寄せることができる。
マリーの裁判の証言で、一瞬だけ彼岸を見て戻ってくる印象があった。

マルグリット:정유지(チョンユジ)

決して飼い馴らすことのできない、山猫のような、鋭い印象のマルグリット。
利用はされない、私は私の道を選んでいる、と思い続けているけど、それは本当に「正しい」の?

フェルセン:민우혁(ミンウヒョク)

少し無骨で、不器用な感じのするハンサムなフェルセン。武人っぽさが強いので、秘密の恋人関係は続かないだろうな~と思う。
演目に関わらず、日本のフェルセンは、池田理代子ベルサイユのばら』~宝塚の文脈が強い。つまり線が細く、鋭角の印象が強い。日本のフェルセンは馬上で指示を出すところは想像できても、兵士と泥をかぶるところは想像できない、という感じ。
だから민우혁フェルセンは新鮮だった。
無骨で不器用なところがあって、意志が強いからこそ、折れたときに脆い。たぶん折れるときに良い音がするし、良い闇落ちをしそう。

オルレアン:김준현(キムジュンヒョン)

笑顔が多く、容姿が美しいので、見ているこっちもうっかり騙されそうになるが、根本的にはすべてを見下しているオルレアン。
気取った優雅な振る舞いをするが、生まれながらに身についたものというよりも、そう見せる「パフォーマンス」の意味合いが強い。マルグリットに告発されたあとのほうが本質。
パレ・ロワイヤルの舞踏会、大司教のあたりでマリーに呆れている。むしろ見下しているのだと思う。
このときのオルレアンの衣裳、アビ(ジュストコールとも言われる。一番外側のコート)が肋骨服に似ていて、「このオルレアンは軍人に未練があるの?」と思った。(史実のオルレアン公爵は、アメリカ独立戦争を支持して戦線に加わるものの、失態を犯して逃げ帰っているはず)
聖母マリアの被昇天の日」、オルレアンがマリーに近寄り、マリーに追い払われるところ、かなりマリーに接近していて「毒蛇の囁き」感はあった。現代でもセクハラになる距離感だった。
距離感が近いといえば、「世論を支配しろ」のところで、オルレアンが後ろにいる印刷工の頬から首を撫でていって、印刷工が怯えていたんだけど、あれはなんだろう? 字幕ついたら歌詞と参照して確認したいな。
김준현オルレアン、お金がなくて代々の美術品とか売っちゃった〜みたいな、史実オルレアンの残念エピソードが妙に想像できる。友達がいなさそう。周りを見下し、パフォーマンスの力が強いのにも関わらずこの印象が生まれるのは、どこかで「無理をしていそう」という印象があるからなのだと思う。
「ベルサイユへの行進」のところ、女装したエベールと向かい合ったとき、オルレアンが優雅に紳士の一礼をして、エベールが淑女の礼で返す。「恐怖政治」のあと、ジャコバン修道院から解散するときにマルグリット、オルレアン、エベールの三人が舞台中央に集合するが、マルグリットがはけたあとにオルレアンとエベールが何かを話して、オルレアンが笑ってエベールを指さすくだりがある。
김준현オルレアンはエベールと気が合いそう。一度相手に対する敷居を下げてしまうと、すごく敷居が低くなるタイプに思える。
パフォーマンスをする力が強く、何かを「装って」いるのだけど、企みを明かしているエベールとのやり取りが自然に仲が良い。平民と一緒にいるときにほうが、オルレアンは気が楽なのではないか。
史実のオルレアン(ルイ=フィリップ2世・ジョゼフ・ドルレアン公爵)は、父であるルイ・フィリップ1世の子ではないという噂があり、革命のさなかに彼が捕らえられてから、処刑の恐怖から逃れるため、自身がルイ・フィリップ1世の子ではないと公言した。김준현オルレアンはこの説を採用していそうな気がする。

ルイ:이한밀(リーハンミル)

ものの道理は分かっている国王。どう運べばいいのかが分からない。平和な時代であれば賢君になったのでは?
史実ではヴァレンヌ逃亡のあとに立憲王政が成立、ルイ16世は拒否権をたびたび発動し、議会は右往左往する。MAではないことになっているこのくだりを、이한밀ルイで見たいと思った。

ランバル公妃:박혜미(パークヒエミ)

マリーの姉のようなランバル。そういう意味ではアニエスのポジションではあるのだと思う。
日本の彩乃ランバルは「王妃様を陰ながら支える」印象が強かったので、姉のよう、という印象はなかった。

エベール:윤선용(ヨンスニョン)

윤선용エベールは基本性質が陽。軽佻浮薄で流されやすい。ときどき口元に手を寄せるのは、ほくそ笑んでる?
マスコミの印象が強いかなと思ったけど、陰謀論で有名なQもこんな感じかもしれない。ちょっと愉快犯っぽい。
エベールの衣裳、指ぬきグローブなのか萌え袖なのか、どんな意味があるのか気になる…(中二っぽいと思ってごめん)
マレ地区でエベールがマルグリットを投げ出して逃げて驚いた。(日本だと2018坂元エベールと2021川口エベールはマルグリットを放置して逃げていき、2021上山エベールは「マルグリット、こっちだ!」と逃がすためマルグリットを先導する)
印刷所のオルレアン、ラ・モット夫人、エベールの位置関係は、日本の2018年と同じだったような気がする。オルレアンの左側にラ・モット夫人がいて、二人とも客席のほうを向いている。エベールはオルレアンの右側から、自分の存在をアピールし、オルレアンが流れるようにエベールを紹介する。この位置関係だと、悪だくみの共犯者としてオルレアンとエベールは対等に見えるんだよね。
윤선용エベールはオルレアンにお金で飼われている自覚がありそうで、オルレアンに見下されてる自覚もありそうだけど、あくまでオルレアンを利用するつもりに見える。
裁判のあとマルグリットを殴ろうと手を上げて、マルグリットに睨まれて結局手を下ろしているから、最後の最後まで捨てきれない良心があるのかもしれない。人に馴れないマルグリットが好きだったのだろうか?最後逮捕されるときも「マルグリット!」って呼んでたね…
それほど強く男性性に拘る感じはしなくて、軽佻浮薄という印象が強い。日本だと2018年の坂元エベールに印象が近いと思う。(2021年の川口/上山エベールは湿度が高いというか、最終的に「陰」の気配が強い)
ただ、2018年の坂元エベールは、公演期間の途中からランバル虐殺で目尻に赤いラインを引いていたので、良心を失っているように見えていた。

蛇足

2021年日本公演の感想を韓国の限界おたくに翻訳されて読まれている気配と、ストリーミングしてほしいと言っている気配を感じたのですが、望み薄なので、メインキャストの最近の配役から雰囲気を掴みとってもらえると嬉しいです。

マリー役
花總まり:「エリザベート」シシィ役、「1789」マリー・アントワネット役、「シークレット・ガーデン」リリー役
笹本玲奈:「ウエスト・サイド・ストーリー」マリア役、「ジキル&ハイド」エマ・ルーシー役

マルグリット役
ソニン:「キンキー・ブーツ」ローレン役、「セブンティーン・アゲイン」スカーレット役、「1789」ソレーヌ役
昆夏美:「ミス・サイゴン」キム役、「レ・ミゼラブル」エポニーヌ役

フェルセン役
田代万里生:「エリザベート」フランツ役、「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」アルヴィン・ケルビー 役・トーマス・ウィーヴァー役、「ジャック・ザ・リッパー」モンロー役、「マタ・ハリ」ラドゥー役
甲斐翔真:「ロミオとジュリエット」ロミオ役、「RENT」ロジャー役

オルレアン役
上原理生:「レ・ミゼラブル」アンジョルラス役・ジャベール役、「スカーレット・ピンパーネル」ロベスピエール役・プリンスオブウェールズ役、「1789」ダントン役
小野田龍之介:「レ・ミゼラブル」アンジョルラス役、「ミス・サイゴン」クリス役、「ウエスト・サイド・ストーリー」トニー役・リフ役

エベール役
川口竜也:「レ・ミゼラブル」ジャベール役、「ノートルダムの鐘」フロロー役
上山竜治:「レ・ミゼラブル」アンジョルラス役、「エリザベート」ルキーニ役(パンデミックにより公演中止)、「ウエスト・サイド・ストーリー」リフ役、「HOPE」カデル・弁護士役、「ブラックメリーポピンズ」ヘルマン役