観劇記録

戦う者の歌を聴かせて

Les Misérables 2021/7/24M

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2012年のヒュー・ジャックマン主演映画の「レ・ミゼラブル」の日本のキャッチコピーは「愛とは生きる力」だったと思うんですが、この言葉を強く思い出す回だった。

シュガバル

本当に…良いバルジャンになって…となった回だった。どこから目線。
シュガバルは19年から色々変わったけど、でも一貫して愛おしくなるバルジャンなんだよね。
もともと受け取る芝居がうまい人だと思うんだけど、受け取って、受け取ったものを「発する」ところが今年本当に凄い。
この日、独白も、裁き(Who am I)も、告白も、伝わってくる感情に泣けた(シュガバルのBHHは純粋な祈りの歌なので私いつも泣いてる)
鎌田司教、前のときシュガバルに厳しかったけどこの日は優しかったな(鎌田司教比で)。
バルジャンの独白で、背景の教会の上の十字架を見上げて、怯えて足がもつれて転んでいた。十字架を見て怯えるのは、自分が神の秩序の外にいると思っているからだと私は思った。
鎌田司教は多分神の秩序に疎外されたことがある人だと私は思ってて、だからバルジャンの気持ちがわかる。秩序の外から、秩序の中に立ち返った人。その人が、秩序の中からバルジャンを呼ぶ。
自分は神の手からこぼれたと思い込み、憎まれたから憎もうとしたバルジャンを呼ぶ。
この構造としての美しさにまず感動し、そして司教の存在こそが「まだ神の手の中にいる?」とシュガバルに気付かせるきっかけになるのだと思った。
シュガバルには砦の学生たちへの共感があって、だからBHHも砦の学生たちみんなへの歌に聞こえる。
バルジャンの告白でシュガバルが言葉を途切らせながら歌ってて、真実を言いたくないのはもちろんあるんだけど、内藤マリはバルジャンを慕うから、その彼が悲しむであろうことを言わなければならない苦しさがあってもう泣いた。
私は、シュガバルは「光」を宿すバルジャンだと思う。まぶしいような、ピカーーとした光じゃなくて、優しい、ほわっと人を包み込むような光で、その光の裳裾が引いた跡に温かいものが残る。

内藤マリウス&いろはコゼット

このマリコゼの組み合わせは「生きている」「生かされている」「愛している」「愛されている」、そして「繋がっていく」…というメッセージが強く出る。
この日のカフェソングの「ああ友よ許せ僕は生きている」のところで、砦が落ちる直前に倒れたマリウスの首で脈を確かめる小野田アンジョの像がよぎって、そんなことを思う必要なんてないのに、って改めて思った。脈を確かめるって、生きていてほしいってことじゃない?
私は、内藤マリウスは両親をはやくに亡くして、パリでの居場所でもあった仲間たちも亡くして、という「喪失感」を強く持つ人だと思ってる。
いろはコゼットは「愛されている」自覚と芯の強さと、真っ白い光のような、清い明るさがある人。
喪失感のあるマリウスが、愛されている自覚と芯の強さを持つコゼットに救われていく。
エピローグで、泣きすがるコゼットを抱えたシュガバルが内藤マリウスを見て微かに微笑んで、内藤マリウスはにこっと笑って頷いていたし、シュガバルの体から力が抜けていくとき、内藤マリウスは腰を浮かしていて、逝ってほしくないのだと思った。
愛していたし、愛されていた。その自覚があるから、二人は明日も生きていく。
シュガバルの、優しい、ほわっと人を包み込むような光が、マリウスとコゼットに受け継がれていくようなフィナーレだった。
内藤マリウスのすごいところは、ここから更に客席に向かって、その光を渡してくるところだと改めて思った。「愛とは生きる力」だな、と…。

めぐファンテ

私はめぐファンテは賢いファンテだと思ってて。例えば職場で、非効率的だったり1人に負担がかかってたりすると改善案を出す人だと思う。意志が強くて正しい人。
でもそういう人ってえてして、改善前のほうが楽だったり得してたりする人には疎んじられるよね。
工場、鳩バイトの労働者が机の下手端にいるんだけど、大泰司さんの労働者はファンテに同情的なの。
この日もやっぱりファンテのことを気にしてて、シュガ市長が下手の階段を昇って行ってしまったとき、市長とファンテを交互に見て心配そうにしていた。
めぐファンテも大泰司さんの労働者に心配されてるの分かってたと思う。
大泰司さんの労働者は、他の労働者の女性から話しかけられたりするのを見ても、あんまり気が強くない、人に言い返せない人に見える。
だから、めぐファンテと大泰司さんの労働者の組み合わせだと「この労働者の女性は、ファンテに助けられたことがあるのかもしれない」と思った。
例えば、大泰司さんの労働者に雑用が押し付けられてるのを見ためぐファンテが、その雑用をみんなで分担しようって言いだしたりとかしたんじゃないかな、と。あの工場は元々市長になる前にマドレーヌさん(バルジャンの偽名)が始めたものだから、マドレーヌさんもそのファンテの提案を容れて、大泰司さんの労働者は助けられたことがあるんじゃないかな、と想像した。
だからファンテが追い詰められていくのを見て、大泰司さんの労働者はつらくなるんだけど、めぐファンテと違って気が弱いからファンテを助けられない。
大泰司さんの労働者、「この淫売が、出てけ」の前すっごい罪悪感かんじてる顔してファンテを見てた。
めぐファンテは賢くて意志が強くて正しい人っていうのは波止場でもいえると思ってて。
バマタボアに殴られて朦朧としてるとき、他のファンテは病気の娼婦に心配されていても、はっきりした反応は返せないんだけど、めぐファンテは返してるの。正気なの。
正気だから、ジャベールがそこにいることも察している。
それで、心配してる石丸病気の娼婦を、警察が来てるから逃げなさいって突き飛ばすんだけど、病気の娼婦はジャベールに捕まってしまう。
この逃がす動作はたぶん、めぐさんと石丸さんでしか発生してない気がする。
そんな感じで、人を助けたり守ったりする性質のファンテだから、ジャベールの「まともな仕事に正しい報い」が、ものすごーーーーく残酷に響く。
彼女はそうありたかった人なのに、社会の不備が彼女を苦境に落とし込んでいく。

小野田アンジョ

7/11M以来の小野田アンジョ。変わってるよと聞いてて楽しみにしてたけど、もはや別人だが?!となった。NEW小野田アンジョだ。
みんなの中では特別だけど、みんなと同じ地平にいる。普通の青年としてのアンジョ。
1幕、ABCカフェのとき、みんなを圧するような声の響きがなくなったな?と思って。
民衆フイイプチソロのとき、小野田アンジョが階下で片手をあげてフイイの言葉に応じているのが見えて、今までたぶんこうはしてなくて…たぶん頷くくらいだったと思うから、何か変わったなと思ってた。
ODMのラスト「明日がくれば」のあたりでふっと上空に視線を投げてて、明日を探している…!と思った。
2幕、川島グランテールの「痛い目にあわせてやろう」への反応でも笑ってた。前ここ頷いてたはず。
恵みの雨のあとでグランテールに見られたときも避けなくなってる。心にチクっとは来てるとは思うけど、人が死んだということを受け止めている。
バルジャンに「そのスパイ、ジャベール任せてほしい」と言われたときも、古川コンブが頷いて、それを確認してから決めていた。(前はここコンブの反応を待ってなかったと思う)
この日のDwMで印象的だったのが、杉浦フイイが歌いだしてしばらくしてからも、砦の上の幹部たちは重たい雰囲気で「僕たちの綺麗な子」「僕たちと寝てくれた」でジョリに歌い継がれるくらいで、たぶん今井クルフェや古川コンブも砦の中を見て笑ってて。
杉浦フイイは、歌いだす前に、よしって決めてるから、みんなの雰囲気変えたくてやってるんだと思う。コンブ・クルフェ・フイイの役割分担としてきれいだな~と思ってた。フイイがみんなを明るくしてくれる。
その中で、川島グランテールが「死など無駄じゃないのか」といって、空気が凍って、モンパ学生がグランテールに掴みかかって。
杉浦フイイは周りをよく見てる人だけど、そのフイイにもどうしたらいいかわからないの。そこでアンジョが下りてくる。
「偽りじゃないか」という川島グランテールに、この日の小野田アンジョはちゃんと向き合おうとしていて、その向き合おうとするアンジョからグランテールが逃げて、アンジョが引き留めるけど、川島グランテールは誤魔化すように笑いながら、誤魔化し切れてない顔で上手に向かう。
マリウスの「死んでもいいさ…」あたり、小野田アンジョは砦の中を見回して、上手の上にいるクルフェのほうを確認して、砦の外を見てた。
あと印象的だったのが、ガブローシュが撃たれる瞬間。
前はここ、小野田アンジョは体は上手の砦の影で両腕だけ出してる瞬間にガブローシュが撃たれてたと思う。この日は両腕出して、思わず、というふうに体が浮いて、砦の影から出ていて…自分を守る芝居をしなくなったんだな、と思った。
ガブローシュの遺体をグランテールに渡したあとに座り込んでしまうのは変わらないんだけど、立ち上がって、砦の外の、居並ぶ兵隊を見て、砦の中、上手のクルフェたちを見て、下手のジョリを見て、砦の下を見る。そこで出てくる「死のう、僕らは敵など恐れはしない」
あの瞬間、負けを確信した瞬間に、何がみんなのためになるか?を懸命に考えて出した結論のように見えた。
マリウスが落ちて、アンジョが駆け寄って、グランテールに引き起こされる。あのとき、小野田アンジョ最期なんて言ったんだろう…あまりに川島グランテールの耳元に顔寄せてたから、なんか言ってる!ってことしかわからなかった。あれ聞こえた人いる…?
21年の小野田アンジョ、19年のイカロスアンジョから変わってるけどなんか…わからない…という感覚でいて、ここにきてNEW小野田アンジョになったので戸惑ってはいるんだけど、私の中では腑に落ちたかな…。
NEW小野田アンジョは、みんなの中では特別だけど、普通の青年として懸命にみんなのこと考えて、生きて、死んでいった。地上のアンジョ。
普通の青年としてのアンジョ、もしかしたら小野田くんがやりたかったアンジョとは違うのかもしれないけど、今の演出はエモーショナルだから、元々周囲に気を配ったり気遣いできる性格の役者には、「人の機微に疎いアンジョ」は難しいのかもしれない。
気付いてないわけではないのに無視をしているとか、気付いていて利用している、ように私には見えてしまってた。それよりは全然、腑に落ちる。
地上のアンジョは私の中では19年の上山アンジョが極北なので、また違うものが見れたら嬉しいな~と思った。
小野田給仕さんはロブスター(だと思う)をお皿ごと持ってうろうろしていた。仕事やる気はあるタイプの給仕。

覚書

・エポコゼ娼婦ウォッチ、今日はいろはちゃんの娼婦の足に腕を置いてもたれる生田ちゃんの娼婦…こんなのもうドガの絵じゃんね

・テナイン、藤岡酔っ払いが綺麗に倒れて、ぶんなぐった石丸鳩ちゃん小さくガッツポーズしてたのかっこよくて惚れるし、杉浦助手にカードゲームに勝って座ったまま小躍りする古川医者が可愛くて笑った

・盲人さんの鳥がミンチになるとき、谷口マダムがぴーちゃーーん!って叫んでた

・ABCカフェ、上手の階段の上で浮かれる内藤マリウスを上手の柱に凭れて腕くんで見守る古川コンブと杉浦フイイ、の図がなんかすごい良かった。初恋だな~って見守ってる。

・ABCカフェ、杉浦フイイ「みんなが平等だ」っていうの好き

・酒瓶キャッチボールからのレーグルに突進していったら小野田アンジョがいた川島グランテール、振り返ったら今井クルフェに見下ろされててちょっと笑った。怒られてる。
この日じゃなかったかもしれないけど、アンジョの「今が決断をするときだ」のとき川島グランテールが「そうだぞ」って古川コンブだったか指さしたときがあって、いやお前だよと思って笑った。

・砦ができたときの「ここが俺たちの死に場所」のときに今井クルフェが右足を台に乗っけるの好き。
今井クルフェは外連味があって血気に逸る感じがしていて、そこでぽわんぽわんした雰囲気の古川コンブ、という組み合わせはわかる。
同時に、クソ真面目熱血漢持木クルフェ&遊びも知ってそうな鈴木コンブという組み合わせもわかる。

・「こどもある者と女達は去りなさい」のあとで今井クルフェが苦しそうに砦の中見てて古川コンブが励ましててすごく良かった 良い