観劇記録

戦う者の歌を聴かせて

Les Misérables 2021/7/11M

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シュガバル

シュガバルは「今こそ自由だ」あたりの明るさや、「こいつを盗んで逃げた」のあとで捕まっているときの怯えて体を丸めてすごく小さくなるところとかを見ても、仮出獄の彼に優しい世界であったならば罪を重ねることはしなかっただろう、と思う。
つまり、犯罪者の更生を妨げる社会への疑問を浮かび上がらせるバルジャンだと思ってて、彼は自分が治める街では公正で平等な理想の社会を実現しようとしてるし、だからこそその街でファンテが零落したのを自分の罪だと思ってるんだと思う。
社会悪を憎む気持ちもあって、だから児童虐待者であるテナルディエ夫妻を軽蔑している。
「この社会」への疑問が強くあって、自分の手の届く範囲で変えていこうとしているバルジャン。
だから革命を起こす若者たちに共鳴する気持ちがあるんだと思う。
シュガバルのBHHはやっぱり祈りの歌で、それってやっぱり若者たちの志にも共鳴した上で彼らのような若者が死ぬべきではないのではないかと思ってるからで、それがまた泣く。
シュガバルが学生たちとゆっくり話し合う時間、あってほしかった…
シュガーさん自身がバルジャンズの中では若くて、学生たちとそう年齢が変わらなくて、気持ちが優しい。そういう「今の彼」にしかできないバルジャンになっていると思う。

川口ジャベール

シュガバルにイエローチケット渡すとき、バルジャンの目の前でゆらゆらしてほらこれが欲しいんだろ?ってやったあとで、さらにイエローチケット握りつぶしていて、嗜虐心強〜ってなった。
あれほかのバルジャンにもやってるっけ?

めぐファンテ

めぐさん冒頭司教とバルジャンのやりとり見てる?よね?
「さあ入りなさい」や「さて我が兄弟」あたりのバルジャンの挙動を波止場で市長に見つかったあたりでトレースするように動いてる。怯えて体を丸めて、視線から逃れる感じ。
このあたり、さすが濱田めぐみというか…司教の「さあ入りなさい」「さてわが兄弟」の変奏がバルジャンの「どこかで会った」「なぜこんな目に」になってるし、「救い」の場面としてもかなり似てくる。
私はここまで意識的にバルジャンの挙動に寄せるファンテ見たことなくて…さすがすぎる…

生田エポ

「なんでも知ってるわ」あたり?エポが本でマリウスの顎撫でててかわいかった。
波止場コゼット娼婦とエポ娼婦のやりとり見てるの好きなんだけど、「お前さんだってさあたいらと同じよ」あたりでファンテが追い込められてくとき、いろは娼婦が階段脇の台に横座りしてる足に生田娼婦が両腕乗せて、その上に顎乗せてて、二人とも美形だからおお絵になる…ドガが描いていそう…となった(ドガの有名なバレリーナの絵は踊り子とパトロン、ないしパトロンする子を物色する紳士、なので波止場の男女に近いものがあります)

内藤マリウス

内藤マリ、シュガバルが「私は父じゃない」のあとコゼット抱きしめながらマリウス見て微笑んだときにニコッと笑いながら頷いて泣いたし、民衆リプライズが聞こえてて泣いたし、民衆の歌に加わったあとで一階席端から端まで、二階席端から端まで見渡してて泣いた。
このタイミングで舞台から客席に越境してくるんだけど、内藤マリが越境するときってちょうど民衆リプライズにみんなの声が重なったときで、つまり舞台の奥から死んだ者たち、生きる者たち、そして現代に向かって思いが流れてくるとき。
生かされているということ、思いが繋がって、連鎖して、先へ繋がっていくということ。その意識が強いマリウスだし、それを客席の私たちに渡そうという意識がものすごく強くて好き。今期も出演してくれてありがとう。

谷口マダム

バルジャンが宿屋に来た時、バルジャンに香水ふきかけてて今期ひさびさに見た~ってテンション上がった

小野田アンジョ

小野田アンジョは「自由のために」で自分の足元を右手で指差していて、自分の足元から変えていこうとしてる…と思った。
(ここ相葉アンジョは銃を見てて、自由のために武力が必要で、血が流れる覚悟があるアンジョとして統一感あるなと思ってる)
二幕、グランテールの「痛い目に遭わせてやろう」にうん、って頷いてた。
恵みの雨のあとで川島グランテールが小野田アンジョを見てて、たぶんあれってアンジョがここでどう出るかを見てて。川島グランテールは小野田アンジョが「彼女が最初、最初の死者だこのバリケードの」って言ったときつらそうに俯く。エポの死をバリケードの士気高揚のために利用するアンジョを悲しんでるんじゃないかな。
エポの遺体が運ばれていったあとで川島グランテールがアンジョを見る、その視線を小野田アンジョはやっぱり受け止めきれないというか、敢えて直視しないようにしてるものを突きつけられてる、気がする。
小野田アンジョはやっぱり現実的な死をわかってないまま、わかっていると思いこんで決起しているんだと思ってて。そのへんは木内アンジョも同じだけど、小野田アンジョの場合、自分の感情そのものを自覚できてないところがある気がする。
DwMで「偽りじゃないか」に揺れてるんだけど揺れてる自分を自覚してない、けどこのままではいけない、という感覚だけはある。
だからグランテールを引き留めるけど、グランテールには振り払われてしまう。
DwMの最後、グランテールが上手に向かい、ガブローシュが追いかける。アンジョは砦の下手の最上段に戻り、マリウスの「死んでもいいさ」のとき、砦の中を見るアンジョ、アンジョを見上げるグランテール、砦の中で座るバルジャンの視線がマリウス一点に集まる。途中、アンジョは砦の中に背を向けて砦の外を見る、そしてBHH前奏へ…というのが基本の動線だと思う。
ただ、この日は小野田アンジョは一度は砦の中に背を向けるものの、再び砦の中を振り返っていた。たぶんマリウスの「(僕が死んだらコセット)泣いてくれるか」あたりじゃなかったかなあ?小野田アンジョが見下ろしたときには、シュガバルは左足元の内藤マリウスを見つめ、川島グランテールは上手で井伊ガブと座っていて、ほとんどBHHの前奏に入る体勢。
BHHはバルジャン≒グランテール、マリウス≒ガブローシュというように構図が重なる。つまり「彼を帰して」の「彼」はマリウスでもガブローシュでもある。見方によっては、砦にいるすべての者たちでもある。
あのとき、小野田アンジョには何が見えていたんだろう?自分が死地に導いてきた者たちを眼下に見おろして。
DwM、グランテールがあそこで小野田アンジョに「伝えきる」ためには、アンジョをぶん殴るくらいの覚悟がなきゃいけない気がする、でも、グランテールにはそれができない。
その「ぶん殴る」が最悪の瞬間にきたのがガブローシュの死で、あそこで小野田アンジョは否が応でも「分からされている」。
ここまでは解釈できたけど、ガブローシュの死で蹲ってすっぽり砦の影に隠れてから「死のう」までの解釈ができない。
「学生たちよよく聞け、市民は援護に来ないぞ」ではっと我に返って立ち上がって、砦掴んで砦の外を見て、外に居並ぶ兵隊たちを見ている。我に返って冷静になってから「死のう」だけど、冷静になっているからむしろ「投降しよう」のほうが腑に落ちる感じがする。
だってあそこのアーミーオフィサー「やめろ死ぬ気か」って死なせないように呼びかけてるんだし。

小野田給仕、今日は仕事するじゃん…って眺めてたらはけるちょっと前から七面鳥を赤子みたいにあやしはじめて笑った

覚書

・工場で一番下手に座ってる女性は鳩枠バイトよね?
大泰司さんの労働者はファンテに同情してる、だけど同情していることを周りに悟られたくない…って感じがする。いじめられっ子を庇うといじめられる的な…??

・めぐファンテ石丸病気の娼婦の組み合わせやっとめぐりあえた〜!!!
ファンテを心配する病気の娼婦と、ジャベが来てること察したファンテが「いいから行って、逃げて」って突き放すのが凄く良いの

・テナイン岩崎香水屋さんに食べろって!ってはやしたてる今井肉屋さん、香水屋さんが「うん、いける」ってやったときドンッ引きしてて笑う

・テーブル乗ったグランテールに「降りなさい」って言ってるの古川コンブさん??かわいいんだが????